不動産売却

【親や身内なら絶対とめる】リースバックをおすすめしない理由

【親や身内なら絶対とめる】リースバックをおすすめしない理由
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Aさん
Aさん

山本くん、いまから時間ない?急で悪いけど、後輩(Bさん)のことで相談があるんだわ

旧知のAさんから慌てた様子で早朝に電話があり、さっそくBさんと一緒にうちの事務所で話を聞くことに・・・。

Bさんのお困りごと

なんでもBさん、ここ最近、住宅ローン返済に困っており、2日前に大阪のリースバック業者と自宅を売る契約をしてしまったと。手付金50万を受領したものの、急に後悔と不安が押し寄せて契約のキャンセルをしようとしたが、業者に断られてしまった。どうすればいいか相談にのってもらえないかとのこと。

Bさんが切羽詰まって先輩のAさんに相談しにいき、私にこの話が回ってきたというわけです。

リースバックってなに?

「リースバック」というのは、簡単にいうと、いま住んでる自宅を売ったあとも、そのまま住み続けられるという、自宅の新手の売り方です。

まずは売主としてリースバック業者と売買契約を結んでから、今度は、借主ととしてその業者と賃貸借契約を結ぶ。

自宅を売ってから、自宅を借りなおす形で、自宅の所有者から賃借人に立場は変わるが、自宅での生活は変わらず続けられるというもの。

「売却代金」は売買契約により所有権移転と同時に、「買主」となるリースバック業者から受け取れますし、逆に「賃料」は、賃貸借契約により「元自宅」に住み続ける限り、「貸主(大家)」となるそのリースバック業者に払い続けなければなりません。

Bさんがリースバックに手を出した理由

Bさんは、50代後半の独身男性で、80代のお母さんと二人暮らし。半年前から無職となり、住宅ローン返済が3カ月滞っていました。

Bさんの事情とリースバック契約までの流れを聞くとこんな感じ。

  • 自宅の名義はBさん。母親と二人暮らし。
  • 築30年の木造2階建、土地は旗竿地40坪
  • 住宅ローン返済は毎月5万円。ローン残高400万円。
  • ヘルニアが酷く、半年前から無職。
  • ローン滞納で銀行からの催促に焦る。
  • ローン返済のために自宅売却を検討。
  • 母親はローン滞納も自宅売却もリースバックも知らない。
  • ネットでリースバックを知る。
  • 母親の年齢で引越しは大変なので、リースバックを検討。
  • ネットで調べた大阪のリースバック業者に話を聞く。
  • 業者のセールストークに感化され2日前にリースバック契約し手付金50万受領。
  • 急な契約を後悔し、キャンセル伝えるも断られる。

結局、住宅ローンの滞納をなんとかする為、普通に自宅を売ろうとしたが、高齢のお母さんがいるので、売ってもそのまま住み続けられるリースバックに興味を持ったと。まずは話だけ聞こうと、たまたま問い合わせた大阪のリースバック業者と流れのままつい契約してしまったのでした。

リースバック業者との契約条件は?

Bさんと大阪のリースバック業者との契約の条件はこんな感じです。いくらで売るのか?いくらで借りるのか?どんな条件で契約するのか?ここが一番肝心なところです。

Bさんの自宅の売却金額800万円
諸経費(仲介手数料含む)約40万円
売買契約後の手取り額(※1-2)約760万円
住宅ローン残高約400万円
ローン完済後の手取り額(※3-4)約360万円
リースバックでBさんが自宅を売った場合の手取り額
Bさんの自宅を借りる家賃8万円/月額
保証金(貸主に支払い返還なし)24万円
諸経費(仲介手数料含む)約10万円
契約時支払合計額(※前家賃2カ月分+2+3)約50万円
その他条件(契約期間)定期借家2年※
リースバックでBさんが自宅を借りた場合の金額

Bさんのリースバックで売却と賃貸の契約後の手取り額

Bさんが、大阪の業者とリースバックで自宅の売却で得る手取り額は、

  • 売却金額800万円ー諸経費40万円=手取り760万円

そこから滞納している住宅ローンを完済すると

  • 手取り額760万円ーローン残高400万円=正味手取り360万円

さらに、自宅を借りる賃貸借契約金を払わなければなりません。

  • 正味手取り額360万円ー賃貸契約金50万円=手元残り310万円

今回の売却を急いだ大きな要因である、住宅ローンの滞納は解消され、310万円の現金が手元に残ります。その代わり、これから毎月家賃8万円を払い続ける必要があります。

そしてお母さんと今の自宅で変わらず生活をすることができます。

「Bさん、よかったですねー、これで安心してお母さんと暮らしていけますねー」

そう言ってあげたい気持ちはなくはないですが

「なんでこんな契約しちゃったの?めちゃくちゃ不利じゃん」

これが率直な感想です。

Bさん自身もリースバック契約したものの、すぐ後悔してキャンセルしようとしたわけですが、これから今回の記事タイトルにあるように、私が「親や身内なら絶対とめる」とつづった理由を説明していきます。

Bさんのリースバック契約の3つの問題点

リースバック契約そのものが悪いというわけではないし、自宅を売ってもそのまま住み続けられる仕組みは、家族間や経済的な事情によってメリットのある選択肢になりえると思いますが、

ただ、Bさんの場合、契約条件がよくない。それが問題です。

  1. 売却価格800万は安すぎる
  2. 仲介手数料も取られている
  3. 定期借家契約は借り手が不利

1.売却価格800万は安すぎる!

Bさんの自宅なら普通の買取でも900~1000万円位は狙える。ちなみに一般の土地相場でいえば1500万位。リースバックは買取と一緒なので、普通に不動産を売るよりも安くなってしまうのは仕方ないですが、800万円はちょっと安すぎる。

2.仲介手数料をとられてる!

Bさんの契約は、買主が大阪のリースバック業者さんで直接売買契約してると思いきや、仲介手数料が計上されていた。仲介会社をはさむ形なら仕方ないところもあるが、お金に切羽詰って契約を急いだBさんを思うと無駄な出費をさせられてるなという感じ。

3.定期借家契約は追い出される危険!

「定期借家契約」というのは、契約期間満了で「必ず契約が終了」するのです。いわゆる「普通借家契約」は借主がまだ住みたいと希望すれば大家は正当事由なく拒否できず「契約更新」となります。しかし定期借家の場合、新たに契約をし直さないと住み続けられないのです。大家に新たな契約を拒否されたら退去しないといけない。定期借家は住み続けたい借主にとっては大きなリスクとなります。

普通の売買より金銭的な損失が大きすぎる

仕事もなくローン滞納で切羽詰っていたAさんからすると、ローンも一括返済できて、愛着のある家で母親を住ませ続ける方法は、リースバックしかないと思っても不思議じゃないし、現実的にそれを実現させる方法であるのは間違いない。

しかしリースバック業者はビジネスなので、なるべく買い値は安く、なるべく賃料は高く、なるべく費用をとる、いざとなったら退去させられるような条件の家しか買いません。

リースバックというのはそもそも、売主にとって普通の不動産売買よりも金銭的な損失を受け入れざるを得ない構図になっています。

リースバックが定期借家契約になる理由

定期借家契約(定期建物賃貸借契約)とは、契約で定めた期間の満了により、更新されることなく確定的に契約が終了する契約のことを言います。定期借家じゃない、いわゆる普通の賃貸借契約では、正当事由(貸主がその建物を自己使用する理由など) が存在しない限り、大家さんからの更新拒絶がしにくい契約(ほぼ不可能)となっていました。

大家にとっては、借主の権利が強い従来の普通借家契約では、家賃滞納や近隣トラブルを起こす不良入居者など、望まぬ賃借人を簡単には退去させられないのが大きなリスクです。リースバックで大家となる業者はそういうリスクを嫌うので、定期借家を望みます。再契約はできるという建前になってますが、不良入居者を抱えてしまうリスクは排除しておきたいのは当然と言えば当然ではあります。

あともうひとつ、リースバック業者は、当面は売主でもある元の所有者に貸して家賃収入を得ますが、最終的な目的は、買い取った物件を将来、転売して利益を得ることです。入居者付きのままでは高く売れませんから、確実に退去させられる定期借家契約じゃなければ、そもそもリースバック業者の事業として差し障りが出てきてしまうのです。

Bさんは手付解除(手付倍返し)で50万損してでも解約すべし!

Bさんはすでに売買契約済なので、基本的にはリースバック手続きを進めるしかないのですが、契約は二日前に締結したばかり。契約キャンセルの申入れは断られてはいるものの、「手付解除」で解約方法が残されています。

契約書を見ると契約後1週間が解除期限。業者は渋るでしょうけど、Bさんが望めば、手付解除で解約できます。

このままリースバックで住み続けるにしても、手元資金は310万しか残っていません。これから毎月8万円の家賃を払い続けなければならない。

さらに定期借家契約なので、2年の契約期間が終われば、基本は契約終了。事実上、いつまでも住み続けられる「普通借家契約」と違って、理屈としては再契約はできるけど、大家に拒否されたら退去しないといけない。

Bさんは定期借家のことは理解してなかったけど、契約上はそうなってるので、あとで知らなかったは通用しないのです。母親のことを考えて、自宅に住み続けるために、わざわざリースバックを選択したはずなのに、先のリスクが大きすぎる。

本来、リースバック契約をする前にすべきこと

まずはローン滞納の件を銀行に相談です。契約を急いでしまったのは、銀行の督促に焦ったからで、実際はまだ滞納3カ月ですから今すぐ差押えになるわけでも競売になるわけでも立ち退きしないといけないわけでもない。毎月の支払いは5万円、現在12万円分の滞納、ローン残高も400万円ほど。このまま放っておくとマズイですが、正直、自宅を売ってなんとかしないといけないレベルではない。

次にしないといけないことは仕事を探すことです。最悪、半年1年かかっても、仕事さえ見つかれば、ローン滞納の件もなんとかできます。それで元の生活に戻れるはずです。そうすれば売る必要はなくなるし、あと7年ほど頑張ればローンも完済できてもっと楽になる。Aさんにそれをすれば、わざわざリースバックに手を出して、自宅を手放す必要もなかったのです。

Bさんは手付解除を選択した

結局、Bさんも、自分が早まったことに気づいて、手付解除をすることに決めました。手付倍返し分の50万は先輩のAさんの協力で工面。大阪の業者もかなり渋ったようですが、最後には応じてくれたようです。

実はBさんには兄弟がいたのに、家族のいろんな事情で相談できずに、すべて一人で背負ってしまったことも、今回のトラブルを招いた要因の一つでもありました。思い切って助けを求めたところ、一時的ではあるけど資金的な協力も得られたようです。

生活資金や残りのローン返済については、仕事が見つけない限りは解決しないですが、家を売らずに望みをつなぐことはできました。正直、楽観はできませんが、あとはBさんの頑張り次第です。

リースバック契約は最終手段

リースバックというのは、自宅を売って資金を得てもなお、自宅に住み続けられる。というのが売り、メリットです。まさにBさんは、目先の資金に困っていたが故に、そして負担を掛けたくない高齢の母親との同居を続けるが為に、良かれと思って契約したリースバックは、普通の売買契約に比べて金銭的に損する内容でした。

手付解除したからといって、Bさんの資金繰りが良くなる保証はありませんが、リースバックを進めていても目先の資金繰りが少し楽になっただけで、この先、住宅ローンの支払額より高い家賃を払い続けることを考えれば、早晩行き詰まる可能性はむしろ高くなったのではと思います。大阪の業者さんには申し訳ないですが、Bさんは手付解除できて結果として金銭的にもよかったはずです。またやり直すチャンスができました。

リースバックというのは、普通に売るより売却金額がかなり安くなる、賃料がやや高めに設定されがち、定期借家なら退去のリスクがある、というデメリットをよく理解して検討しないといけません。

少なくとも10年も20年もまだ生きる可能性がある人が選択するものでないと思います。普通に家を売るのと比べて、下手したら手取りは半分近くになる可能性もあるので、あとでこんなはずじゃなかったと後悔することのないようご注意ください。

ABOUT ME
山本 直嗣
山本 直嗣
春日井シティ不動産(株)代表
名古屋のお隣、春日井市で不動産業を営む。地元の鳥居松出身で鳥居松小柏原中OB。平成17年に春日井シティ不動産を創業し、不動産売買と賃貸管理を中心に1000件以上の不動産問題を解決。趣味はラグビー。
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