【未登記ダメ】相続登記せずして不動産は売れず
妹と2人で共有している「土地を売りたい」とAさんから相談がありました。でも、その土地はまだ自分たちの名義になっていないといいます。話を聞いてみると、相続登記をせずにそのまま放置している土地だとわかりました。
- 土地はもともとAさん兄妹のお父さんが所有していた。
- 30年前にお父さんが亡くなった。
- 法定相続人としてはお母さんとAさん兄妹の3人。
- でも土地の相続登記はせず、そのまま放置していた。
- それからしばらくして、お母さんも亡くなった。
- やはり相続登記はせず、10年ほど放置状態だった。
- 相続登記してないのでまだ父親名義のまま。
- 面倒でただ先送りにしてただけ。
- ここへきて土地を売りたい事情ができた。
- 妹も売ることに同意している。
さっそく法務局でその土地の登記簿をあげてみると、所有者名義はやはり、Aさん兄妹のお父さんのまま。
本来であれば登記名義を被相続人から相続人に変更すべきところ、Aさん兄妹は相続登記をしていませんでした。
結局、相続登記がされてないと、Aさん兄妹がこの土地の「本当の所有者」かどうか証明できず、売買の手続上で支障があるため、Aさん兄妹が本当に所有者だとしても、事実上、土地は売れないのです。
しかし、逆に言えば、いまからでも相続登記を完了させれば、土地を売ることが可能となります。
相続登記しないと土地は売れない
そもそも登記ってなに?
不動産登記というのは、土地や建物の「物理的状況」や所有者や利害関係者の「権利関係」を公示するための制度です。
例えば、土地の登記簿をみれば、所在地番や面積や地目だけじゃなく、だれが所有者なのか、借金して抵当に入ってるかどうか、所有者の権利が制限されているものがあるかどうか、わかるようになっています。
不動産の相続や売買があれば、当事者から委任された司法書士が、法務局に登記申請をすることで新しい権利関係など公示されることになります。
登記は義務じゃない?
しかし、意外や意外、じつは不動産の登記というのは、所有権などの権利部分に関しては、登記するかしないかは、個人の判断に任されていて、法律上の義務ではないのです。
権利関係に関しては、法務局が自動的に登記してくれるわけじゃなく、登記するかしないかは当事者の任意とされてます。
不動産売買の場合は、仲介業者も入りますし、登記は必ずきちんと完了させます。買主が土地を買うのに所有権登記できないのに、お金を払うことはないからです。
でも相続の場合は、登記されずに放置されているケースが、実はちょいちょいありまして、Aさん兄妹のようなことは現実的におこりえます。
遺産分割で揉めてできない場合もあれば、登記費用もかかるし今すぐしなくてもまいっかとただ先送りにしてただけというケースもあります。
でも、相続未登記で先送りして放置してしまうと、あとで必ず後悔することになります。
売る予定がなくても相続登記は今すぐすべし!
不動産の所有権というのは、「本当の所有者だとしても、所有権の登記をしていない場合、その人が自分が所有者であると他人に主張することができない」ことになっています。
登記名義が既に亡くなっているお父さんの名前のままならば、Aさんの土地を買いたいという人がいても、そのままではAさんが真の所有者かどうか証明できない以上、買い手はAさんにお金を払うわけにはいかないし、銀行も登記名義人が相違する土地にお金を貸すことはありません。
正しく登記をしていないと、そのままでは売ることもできないし、土地を担保に銀行からお金を借りることもできないのです。
Aさん兄妹は相続登記をして売却できた
Aさんが土地を売るにあたり、30年前のままの父親名義を、相続人である自分名義にするために、相続登記を完了させないといけません。
そのために法定相続人の全員の合意をえて、相続登記の手続きをする必要があります。
Aさんの場合は、お父さんが亡くなったあとでお母さんも亡くなっていますが、法定相続人が自分と妹さんと二人だけ。
特にほかの権利者もなく争いもなかったので、司法書士に依頼して、自分と妹で2分の1ずつの所有権割合で相続登記をおこなうことができました。
30年前の相続にもかかわらず、法定相続人が少なくて揉めることなく、無事に登記ができたのは運がよいケースです。その後、普通に土地を売却することができました。
中には権利関係が複雑になりすぎて、いまさら相続登記が完了できないというケースもあります。
放置された相続登記がややこしい理由
たまたまAさんの場合はうまくいったのですが、逆に相続登記が困難なケースもよくあります。
例えば、法定相続人の数がもっと多いとか、その内の誰かがすでに亡くなっているなど、さらには相続人同士でもめているとか。
こういうややこしいケースの方が多いかもしれません。
むかしの相続登記をしようとするときに一番大変なことは法定相続人全員の同意を得ることなのです。
Aさんの場合でも、もし妹さんと疎遠で仲が悪いとか、音信不通であれば、妹さんの同意を得られないので、そこで手続きは止まります。
あるいは、妹さんが亡くなってた場合、さらに相続が発生してその子どもなど法定相続人が増えます。その子どもも亡くなってれば、さらに法定相続人が発生してる可能性もありえます。
日本全国、海外に散らばってる可能性のある法定相続人をすべてを探し出して同意を得ないと、相続登記はできません。また法定相続人の誰かが高齢で意思能力が認められない状態になる可能性もあります。
Aさんの家族は父と母、兄妹二人とシンプルでしたが、相続人に配偶者や子どもがいないと親兄弟も法定相続人になってややこしくなってしまいます。
相続が起こったときに登記をしておけば何の問題もなかったのに、放置しておくことで高齢化したり、法定相続人が増えたりして、相続登記が困難になるケースが非常に多いのです。
相続登記が義務化
ほとんどの相続ではきちんと登記がなされているのですが、これまで義務ではなかった相続登記が放置されているケースは少なくありません。
しかし、民法改正により、令和6年4月1日から相続登記が義務化されました。過去の相続にも3年の猶予期間がありますが、遡及して適用になります。
(1)相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
(2)遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。
(1)と(2)のいずれについても、正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料の適用対象となります。
いまは売るつもりもないからそのままでいいわけではありません。いざとなったときに、登記が正しくされてないと、トラブルの元ですし、メリットはなに一つありません。
まだ相続登記をされてない方は、なるべく早めに相続登記をしましょう。相続登記に強い司法書士の先生をご紹介することも可能です。