リースバックのカラクリに注意
「山本くん、いまから時間ない?急で悪いけど友人のことで相談があるんだわ」以前土地の売買をさせていただいたRさんから慌てた様子で早朝に電話が・・・。さっそく、友人のAさんを連れてご来店。
なんでも、Aさんが大阪の買取業者にリースバックで自宅を売却し2日前に契約してしまった。その話を聞いたRさんがその契約内容を不審に思い、問題がないかどうか確認してほしいと。
リースバックというのは、簡単にいうと、Aさんが自宅を売ったあとも、そのまま自宅に住み続けることができるよう売買と賃貸を一体化した契約方式。Aさんは、買主と売買契約と同時に賃貸借契約も結んで、売ったあとは買主に賃料を払って借主として住むことができるというもの。
リースバックは専門業者が買主になることが多いのですが、訳あって自宅を売らざるを得ない状況になっても愛着ある自宅に住み続けたいという人にはメリットのありそうな方法です。しかし、いろいろと問題があります。
話を聞いたAさんの状況はこんな感じ。
自宅は、土地40坪。築30年の木造2階建。
名義は自分。高齢の母親と2人暮らし。
半年前から無職。住宅ローン3カ月滞納。
ローン残高は約400万。毎月5万円支払い。
家を売らないとローン返済は不可能。
母親は現状を知らない。
ネットでリースバックを知る。
ネットで調べた大阪の業者に話を聞く。
2日前にリースバック契約。手付金受領済。

自宅の売買契約と賃貸借契約の条件はこんな感じです。第三者からしたら、Aさんはよくこの条件でOKしたなという内容。
売買契約:売却金額800万円(手付金:50万円、残代金:750万円)契約から決済まで3週間、費用40万円(仲介手数料含む)
売却によるAさんの手取りは、800万ー40万=760万円です。そこから、ローン残400万円を一括返済しないといけないので、残り360万円。
賃貸借契約:賃料8万円、保証金24万円、定期借家契約2年、費用10万円(仲介手数料含む)
賃貸借契約にも費用がかかります。16万(前家賃2カ月分)+24万+10万=50万円。これを売却代金から払うと、残り310万円。
これから毎月家賃8万円かかりますが、これで、ローン滞納地獄から解放され、生活スタイルとしては変わらず、引越しの苦労もなく、実家で母親と暮らしていけます。
Aさんが独り身ならば、自宅を普通に売って、なんなくどこかに引っ越せばすんだことですが、母親のことを思えばこそ、リースバックで当座をしのいだわけで、リースバックさまさまと言ってもいいかもしれません。
でもやはり、Aさんがこのリースバック契約で得るものよりも失うものの方が大きいし、Aさんは早まったなという印象。
自宅を売ってまでして住宅ローンの支払いより高い家賃を毎月払い続けるってよくわかりません。
とは言え、法令に違反してるわけでもない普通のリースバック契約なので別にいいのですが、問題があるかと聞かれたら「ある!」と声を大にしていいたいという感じです。
リースバック契約のなにが問題なのか?
リースバック契約そのものが悪いわけじゃないのですが、普通は一般の個人と専門業者の取引となるため、知らずの知らずのうちに一般個人が条件面で劣勢を強いられがちです。Aさんの場合も、不動産の知識がなく、ましてやローン滞納で切羽つまっている状態。業者に言われるがままで契約をすすめたのだろうと思うくらい条件が良くない。
1.売却価格800万は安すぎる!
Aさんの自宅なら買取でも900~1000万円位は狙える。ちなみに一般の土地相場でいえば1500万位。リースバックは買取と一緒なので、普通に不動産を売るよりも安くなってしまうのは仕方ないですが、800万円はちょっと安すぎるかなと。
2.仲介手数料をとられる!
Aさんのリースバック契約は、買主が大阪の業者さんで同社の担当と直接契約手続きしてるのに、仲介手数料が計上されていた。正直これは仕方ないところもあるが、お金に切羽詰って契約を急いだAさんを思うと無駄な出費をさせられてるなという感じ。
3.定期借家契約は追い出される危険!
個人的にはこれが一番、リースバック契約における罠だと思ってることです。定期借家契約というのは、契約期間満了で必ず契約が終了するのです。いわゆる普通借家契約は借主がまだ住みたいと希望すれば大家は正当事由なく拒否できず契約更新となります。しかし定期借家の場合、新たに契約をし直さないと住み続けられないのです。大家に新たな契約を拒否されたら終わり。退去しないといけない。あとでもう少し説明しますが、定期借家は借主にとっては大きなリスクとなります。
4.一般の不動産取引より金銭的な損失が大きい
仕事もなくローン滞納で切羽詰っていたAさんからすると、ローンも一括返済できて、愛着のある家で母親を住ませ続ける方法は、リースバックしかないと思っても不思議じゃないし、現実的にそれを実現させる方法であるのは間違いない。でも、しかし業者はビジネスなので、とれるところから利益をとろうとします。それは当たり前のことです。なるべく買い値は安く、なるべく賃料は高く、なるべく費用をとる、いざとなったら退去させられるように。つまりリースバックというのはそもそも、立場の弱いAさんにとって一般の不動産取引の相手よりも金銭的な損失を受け入れざるを得ない構図になっています。

リースバック契約をしたAさんはどうなるのか?
すでに売買契約は締結して、手付金も50万円受け取っています。3週間後には、残代金を受け取って所有権移転が終わり、ローンも完済できる。これからは借主として生活していくだけです。でもやはり、余計なお世話ですが、Aさんの明るい未来がイメージできません。その場しのぎ感が強すぎて、根本的な解決になっていない気がします。だって、そもそも自宅を売る必要ってまだないんです。ほんとは。売る前にやれることがあるんです。
本来、リースバック契約をする前にAさんがすべきこと
まずはローン滞納の件を銀行に相談です。契約を急いでしまったのは、銀行の督促に焦ったからで、実際はまだ滞納3カ月ですから今すぐ差押えになるわけでも競売になるわけでも立ち退きしないといけないわけでもない。毎月の支払いは5万円、現在12万円分の滞納、ローン残高も400万円ほど。このまま放っておくとマズイですが、正直、自宅を売ってなんとかしないといけないレベルではない。
次にしないといけないことは仕事を探すことです。最悪、半年1年かかっても、仕事さえ見つかれば、ローン滞納の件もなんとかできます。それで元の生活に戻れるはずです。そうすれば売る必要はなくなるし、あと7年ほど頑張ればローンも完済できてもっと楽になる。Aさんにそれをすれば、わざわざリースバックに手を出して、自宅を手放す必要もなかったのです。
手付解除(手付倍返し)で50万損してでも解約をすすめた理由
Aさんはすでに契約してしまっている状態なので、基本的には話を進めるしかないのですが、売買契約は二日前に締結したばかり。いちおう、手付解除で解約という方法があります。契約書を見ると契約後1週間が解除期限。業者は渋るでしょうけど、Aさんが望めば、手付解除で解約できそうです。
Aさんだって、本当は売らずにそのまま母親と暮らせるならそれが一番いいし、そもそも売りたくて売るわけじゃない。個人的に一番ひっかるのは、定期借家契約ということなんです。少し触れましたが、普通の借家契約と違って、2年の契約期間が終われば、基本は契約終了。理屈としては再契約はできるけど、大家に拒否されたらそれで終わり。退去しないといけないということ。
業者もビジネスなので、そういう仕組みと言えばそれまでですが、Aさんは定期借家で契約するということは知らず、賃貸でいつまでも住めると思ってました。業者がどう説明したかはわかりませんが、切羽つまった一般の人なら、業者の言うままポンポン判をついても不思議じゃない。
母親のことを考えて、自宅に住み続けるために、わざわざリースバックを選択したはずなのに、先のリスクが大きすぎる。
なぜ業者は定期借家契約にしたいのか?
定期借家契約(定期建物賃貸借契約)とは、契約で定めた期間の満了により、更新されることなく確定的に契約が終了する契約のことを言います。定期借家じゃない、いわゆる普通の賃貸借契約では、正当事由(貸主がその建物を自己使用する理由など) が存在しない限り、大家さんからの更新拒絶がしにくい契約(ほぼ不可能)となっていました。
大家にとっては、借主の権利が強い従来の普通借家契約では、家賃滞納や近隣トラブルを起こす不良入居者など、望まぬ賃借人を簡単には退去させられないのが大きなリスクです。リースバックで大家となる業者はそういうリスクを嫌うので、定期借家を望みます。再契約はできるという建前になってますが、不良入居者を抱えてしまうリスクは排除しておきたいのは当然と言えば当然ではあります。
あともうひとつ、リースバック業者は、当面は売主でもある元の所有者に貸して家賃収入を得ますが、最終的な目的は、買い取った物件を将来、転売して利益を得ることです。入居者付きのままでは高く売れませんから、確実に退去させられる定期借家契約じゃなければ、そもそもリースバック業者の事業として差し障りが出てきてしまうのです。

Aさんの結末はどうなったか?
結局、Aさんも、自分が早まった選択をしたことに気づいて、手付解除をすることに決めました。手付倍返し分の50万はRさんの協力で工面。大阪の業者もかなり渋ったようですが、最後には応じてくれました。実はAさんには兄弟がいたのに、家族のいろんな事情で相談できずに、すべて一人で背負ってしまったことも、今回のトラブルを招いた要因の一つでもありました。思い切って助けを求めたところ、一時的ではあるけど資金的な協力も得られたようです。
生活資金や残りのローン返済については、仕事が見つけない限りは解決しないですが、家を売らずに望みをつなぐことはできました。正直、楽観はできませんが、あとはAさんの頑張り次第です。
リースバック契約してもいい人、しないほうがいい人
リースバックというのは、自宅を売って資金を得てもなお、自宅に住み続けられる。というのが売り、メリットです。まさにAさんは、目先の資金に困っていたが故に、そして負担を掛けたくない高齢の母親との同居を続けるがために、普通の不動産売買・賃貸取引に比べて金銭的に得にならないリースバックをいったんは選択しました。
手付解除したからといって、Aさんの資金繰りが良くなる保証はありませんが、リースバックを進めていても目先の資金繰りが少し楽になっただけで、この先、住宅ローンの支払額より高い家賃を払い続けることを考えれば、早晩行き詰まる可能性はむしろ高くなったのではと思います。大阪の業者さんには申し訳ないですが、Aさんは手付解除できて結果として金銭的にもよかったはずです。またやり直すチャンスができました。
リースバックのメリットもあるのですが、売却金額が普通に売るよりかなり安くなる、賃料がやや高めに設定されがち、定期借家なら退去のリスクがある、等のデメリットも正しく受け入れられる人は検討してもいいでしょう。メリットだけでなく、しっかりとデメリットも理解して、あとでこんなはずじゃなかった。と後悔することのないようご注意いただきたいと思います。
